春は別れの季節であり、新たな出会いの季節でもあります。
そう言うと聞こえはいいのですが、実際は新年度に変わり、普段より慌ただしくなるという人も多いでしょう。
まさに、「怒涛(どとう)の日々を過ごす」というわけですね。
ところで、この「怒涛」という言葉、何となく使ってはいるものの、元々どういう意味なのかはあまり知られていません。
「『怒涛』って、どういう意味?」
「『怒涛』は、どういうときに使うの?」
「『怒涛』と似た意味の言葉や、英語で何というか知りたい」
そんなあなたのために、「怒涛」の意味や使い方、類語や英語について、徹底分析しました。
そこで、今回まとめた内容はこちら
- 「怒涛」は元々どういう意味?
- 「怒涛」の主な使い方は?
- 「怒涛」と似た意味の言葉は?
- 「怒涛」は英語で何と言う?
「怒涛」は元々の意味は勢い激しく荒れ狂う大波のこと
元々「怒涛」とは、勢い激しく荒れ狂う大波のことです。
そこから転じて、「目まぐるしい」や「慌ただしい」という忙しさ、「盛ん」や「盛大」などの勢いの良さをたとえて使われるようになりました。
では、「怒涛」をそれぞれの漢字から分析していきましょう。

「怒」は腹立たしい感情や激しい動きを表す
「怒」は、ご存じ「怒る(おこる、いかる)」など、腹立たしい感情を表すときに使われます。
また、感情としての怒りのほかにも、「勢い激しく動く」や「猛々(たけだけ)しくふるまう」といった、動きの激しさを意味する言葉でもあるんですよ。

さらに「怒」を分解してみた
ところで、「怒」という漢字は、「女」「又」「心」という3つの漢字で構成されていますよね。
なぜ、この3文字なのか、さらに掘り下げてみました。
まず、「女」と「又」で「奴(やつ、やっこ)」となりますね。
「奴」は、奴隷(どれい)、召使いという意味で、家の召使いを「家つ子(やつこ)」と呼んだことが由来です。
「又(ゆう)」は「手で捕まえる」という意味があり、「女を手で捕まえる」→「捕虜となった女」→「奴隷」と転じていきました。
その召使いの「心」、つまり召使いの主君に対する不満な気持ちが、「怒」という漢字に込められたというわけです。
わかりにくいので、もう少し掘り下げてみましょうか。
さかのぼること江戸時代、槍や挟み箱(衣服などの日用品を運ぶための箱で、担ぐための棒がついている)を担いで大名行列の先頭を歩く召使いは「槍持奴(やりもちやっこ)」と呼ばれました。
この槍持奴が着ていた半纏(はんてん)には釘抜紋(くぎぬきもん)が用いられており、釘抜紋の模様から、食材を大きめの立方体に切ることを「奴(やっこ)に切る」なんて言います。
豆腐の冷奴(ひややっこ)もこれが由来なんですよ。
さらに、槍持奴の風貌を描いた「奴凧(やっこだこ)」の「奴」も同じで、左右に描かれている四角い模様が釘抜紋です。

身分の低い槍持奴が高く上がって、身分の高い大名の屋敷を見下ろすという、奴たちの不平不満を元に作られたのが奴凧の始まり。
これで、「奴の心は怒っている」という意味もわかったような気がしますね。
「涛」は大きな波や波立つことを表す
「涛」は、「大きな波」そのものや、「波立つこと」を意味します。
ちなみに、「濤」という書き方もありますが、これは異体字(見た目は異なるが、意味や発音が同じ字のこと)なので、どちらも間違いではありません。
その証拠に、「なみ」を変換すると、ちゃんと「涛」も「濤」も出てきました。
さらに「涛(濤)」を分解してみた
「涛(濤)」についても、分解して考察してみました。
まず、「氵(さんずい)」が水を意味することは、何となくわかりますね。
もう一方の「寿(壽)」ですが、「老人が長く生きる」という意味で、「長寿」や「寿命」といった言葉でもおなじみです。
さらに言うと、老人が長く生きる様子を、長く続く「畝(うね)※」にたとえたとも言われています。
※畝:畑の土を細長く直線状に盛り上げた栽培床のこと。

「畝」は「疇」とも書きますので、同じ「壽」が使われていますね。
まとめると、水が長く続いていく様子から、絶え間なく波が押し寄せることを「涛(濤)」というようになったと考えられます。
激しい勢いで絶え間なく波が押し寄せる様子から、「涛(波)が怒る」と書いて「怒涛」なんて、昔の人は上手いこと言いましたね。
「怒涛」の主な使い方を6つご紹介
「怒涛」の意味がわかったところで、次は主な使い方をご紹介します。
例1「怒涛の日々を過ごす」
意味:忙しくて目まぐるしい日々を過ごす
例:仕事もプライベートも忙しすぎて怒涛の日々を過ごす私には、早急に焼き肉とビールが必要だ。

例2「怒涛のラッシュ」
意味:物事が勢いよく集中すること、激しい連続攻撃
例:試合開始10秒で怒涛のラッシュが決まり、ボクシング歴1か月の挑戦者がチャンピオンにKO勝ちした。
備考:テレビゲーム「スーパーロボット大戦OG ムーン・デュエラーズ」のトロフィー※に「怒涛のラッシュ」がある。
※トロフィー:PS5などのゲームでやりこみ具合を表す指標のこと。対応しているゲーム中にある条件を達成すると獲得できる。
例3「怒涛の勢い」
意味:ものすごい勢い、思い切りがよく大胆なさま
例:試験前夜、彼は怒涛の勢いで勉強したが、勉強した内容は試験範囲外だった。
備考:アプリゲーム「ドラゴンボールレジェンズ」のユニークフラグメント※に「怒涛の勢い」がある。
※ユニークフラグメント:フラグメントとは、装備させたキャラクターの能力を上昇させるもの。フラグメントの中でも、特殊でレアリティが最も高いものを、ユニークフラグメントという。
例4「怒涛のごとく」
意味:勢い激しい波のように(「ごとく」は「~のように」という意味)
例:スーパーのタイムセールが始まるや否や、客が怒涛のごとく押し寄せてきた。
備考:直木賞作家・白石一郎の小説に「怒濤のごとく」がある。

例5「怒涛のスケジュール」
意味:次から次へと予定が入り、休む間もないくらいハードなスケジュール
例:30連勤という怒涛のスケジュールが昨日で終わったが、明日からは50連勤が始まる。
例6「疾風怒涛(疾風怒濤)(しっぷうどとう)」
意味:激しい風が吹き荒れ、大きな波が荒れ狂う様子のこと。転じて、時代が激しく変化するさま。
例:この部署は、自分以外の15人全員が今月いっぱいで退職するので、疾風怒濤の状態になるだろう。
備考:アプリゲーム「ウマ娘 プリティーダービー」のスキルに「疾風怒濤」がある。

ゲームなどの創作にも、「怒涛」はよく使われているんですね。
「怒涛」と似た意味の言葉は目まぐるしいを連想させる
「怒涛」の意味と使い方はバッチリなので、次は似たような意味の言葉をご紹介します。
ここでは、「怒涛」が持つ意味を分け、それぞれ「激しい波」「忙しさ」「勢いの良さ」の3タイプから考察しました。
- 「激しい波」としての類語:大波、荒波、波瀾(波乱)
「荒波」は、「社会の荒波にもまれる」と言うように、わずらわしい物事を指す言葉でもあります。
また、「波瀾(波乱)」は、激しい騒動を意味し、「波瀾の幕開け」などと使われますね。
- 「忙しさ」としての類語:目まぐるしい、矢継ぎ早に、畳みかけるように、ひっきりなしに
「怒涛の日々を過ごす」「怒涛のスケジュール」など、忙しくて目が回るという意味もあるんですね。
- 「勢いの良さ」としての類語:盛ん、盛大、旺盛、威勢の良い
「怒涛の勢い」は、勢いの程度が凄まじいときに使います。
どのタイプも、荒々しさや激しさをイメージする言葉ばかりですね。
「怒涛」は英語でraging waves(レイジング ウェーブス)
最後は、「怒涛」を意味する英語を見ていきましょう。
こちらも、「激しい波」「忙しさ」「勢いの良さ」の3タイプで分類しました。
- 「激しい波」:raging waves(レイジング ウェーブス)、raging billows(レイジング ビローズ)、angry waves(アングリー ウェーブス)、surging waves(サージング ウェーブス)
- 「忙しさ」(目まぐるしい):hectic(ヘクティック)、bewildering(ビウィルダリング)、dizzying(ディズィリング)、bustling(バストリング)
- 「勢いの良さ」(盛んな):powerful(パワフル)、vigorous(ヴィゴラス)、prosperous(プロスペラス)
raging wavesなどは「激しい波」という直接的な意味ですが、「目まぐるしい」や「盛んな」などの意味で考えると、まったく違う言葉が出てきました。
同じ「怒涛」という言葉でも、微妙な意味の違いによって英語訳も変わるなんて、面白いですね。
まとめ
- 「怒涛」は、勢い激しく荒れ狂う大波のことで、ほかにも「忙しさ」や「勢いの良さ」をたとえる際に使われる。
- 「怒涛」は、「怒涛の日々を過ごす」「怒涛のラッシュ」「怒涛の勢い」といった使い方をする。
- 「怒涛」と似た言葉には、「荒波」「波瀾(波乱)」「目まぐるしい」「盛ん」がある。
- 「怒涛」を英語で表すと、「raging waves(レイジング ウェーブス)」「hectic(ヘクティック)」「powerful(パワフル)」が挙げられる。
怒涛の日々を過ごす皆さん、お体に気をつけてくださいね。
寂しいのでコメントお願いします。